私が源氏物語を書いたわけ

P_20170626_193808_vHDR_Auto-crops.jpg 山本淳子「私が源氏物語を書いたわけ 紫式部ひとり語り」について。

前に、「枕草子のたくらみ」で、この著者の本をとりあげた。
執筆年次からすると、本書のほうが先のようである。

この著者の本は、その前に平安人の心で『源氏物語』を読むも本ブログでとりあげた。
日本の古典文学、とりわけ女流文学に関しては、この先生の本が、なんだか安心して読めるような気がする。


本書は、全編、紫式部の語りという形をとっているのだけれど、私は、この本はもっと学術的な解説がなされるものと思っていた。
しかし、本書には、著者としての説明はなく(あとがきはあるが)、いきなり紫式部としての言葉から始まるので、そうした解説物を想像していた私としては、少々、面食らった。

私が予想していたのは、紫式部の「ひとり語り」と、それに対する著者の解説を併記するようなもの。
源氏のテキストはもとより、紫式部日記や家集、その他、同時代の文献などを駆使しながら、紫式部にそう語らせた根拠を、学者目線で丁寧に論証するように書かれているのだろうと、勝手に思っていた。


会者定離―雲隠れにし夜半の月
矜持―男子にて持たらぬこそ、幸ひなかりけれ
―春は解くるもの
喪失―「世」と「身」と「心」
創作―はかなき物語
出仕―いま九重ぞ思ひ乱るる
本領発揮―楽府といふ書
皇子誕生―秋のけはひ入り立つままに
違和感―我も浮きたる世を過ぐしつつ
女房―ものの飾りにはあらず
「御堂関白道長妾」―戸を叩く人
汚点―しるき日かげをあはれとぞ見し
崩御と客死―なほこのたびは生かむとぞおもふ
到達―憂しと見つつも永らふるかな
ところが、そうした解説は、紫式部の語りの中に溶かし込まれていて、読者がそれを察知するように仕向けられている。
こうした著者のたくらみは、語りと地の文を往き来する面倒を減殺する点では成功している。読み進むにつれて、紫式部の精神の動きも見えてくるようになっているからだ。
ただし、どうしても紫式部の語りの形をとるから、著者にもわからないことは、紫式部にもわからないこと

隠しておくという形や、想像にまかせるという形で語られる。
道長との仲についてなどがそう。

として語られる。(だから、小説じゃないというわけだ)

「枕草子のたくらみ」と本書で、やはり印象的なのは、定子と彰子。
定子については、理想の女性、ただし悲劇の中宮として、そして死後も宮廷から惜しまれた存在だったというのが著者の評価で、私もそうなんだろうと思う。
対して、彰子は、幼いうちに中宮となった、子供子供した、どちらかと言えば存在感の薄い女性のように思っていたけれど、著者は、ちゃんと成長し、必ずしも父道長のいうがままになっていたわけではない、宮廷権力の一角として自分の居場所をきちんと確保していると評価している。
紫式部、清少納言とも、その主人の存在なくしては、その作品はなかっただろう。

さて、著者は「あとがき」で、「これは小説ではない」と書いている。
たしかに小説というには、情景や心理描写が平板というか、固いから、その世界に没入して楽しむというような本ではないと思う。(それに大胆な推測は避けられている。)

しかし、これは小説にしたくなる、あるいはドラマにしたくなる素材だと思う。
前に、「枕草子のたくらみ」の記事で、同書をもとに、著者が著者が脚本を書いたら良いと書いたけれど、この「紫式部ひとり語り」も、これをもとに脚本を書いてもらえたらと思う。
小説としての言語表現に対しては著者は(学者であるせいか)、控え目なようだけれど、脚本ならば、それを解釈する監督によって、その上に自由な表現を載せることができるのではないかと思う。

山本淳子先生ご自身が脚本にしなくても、これを映画や演劇、あるいはマンガにしようという人がいたら、その人が脚本を書くに違いないが。
本書の腰巻に、「映画『源氏物語千年の謎』に答える!!」とあるけれど、この映画は存在も知らなかった。ネットの評を見る限り、本書が底本になっているようなものではないみたい。


大河ドラマでも良いんじゃないだろうか。
「私が源氏物語を書いたわけ」と「枕草子のたくらみ」の両方を下敷きにして。

残念ながら、紫式部と清少納言の直接のからみは史実としてはなさそうだけれど、少なくとも紫式部は清少納言を強く意識していたはずだから、時空を共有しなくても、精神的表現でなら、からみはつくれると思う。
キャスティングはどうなるだろう。紫式部は吉田羊とかが合いそうな気がする。
(清少納言は前に書いたように北川景子で)
彰子は、幼くして入内するときと、成長したときの両方ができる女優がいるだろうか。


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