サイバー時代の戦争

cyberjidainosenso.jpg人工知能ネタが続いているが、これに少し関連した話題。

谷口 長世「サイバー時代の戦争 」(岩波新書)という本がある。
著者は、元毎日新聞ブリュッセル特派員・支局長といジャーナリストだそうだ。
ブリュッセルは「EUの首都」とも言われるようにEUのさまざまな機関が集積しているが、なんといってもNATOの本部がある。軍事ジャーナリストの活動拠点としては適地かもしれない。

文章自体は、散文的で情緒的、ジャーナリスト特有のとりすました表現で、深く論理的に追及するというより、事実と問題の提起という感じ、旅行記というか旅随筆のような文体なのだが……

実は、私はこのタイトルで、サイバー空間における戦争(陸・海・空・宇宙に加え第五の戦場というそうだ)のことが書かれているのかと思ったのだが、もちろんそれもある。

たとえば、イランのウラン濃縮施設をコンピュータ・ウィルスで使用不能にした話や、米国の無人機をやはり特殊なソフトを仕込んで不時着させた話、ロシアのパイプラインが大爆発したのは時限式のウィルスによるものだとか。


これらは目を惹くものだが、それだけではなくて、ITによって、兵器及び兵器運用システム、さらには「軍事同盟」という国際社会の在り方までが大きく変わっていることが中心になっている。そして、ブッシュからオバマになっても、その部分は変更されていないと。

同書では、無人機の現状が説明されるのだが、この本の中で、軍事関係者の話として何度も強調されるのが、無人機単体ではなく、システム全体を見なければならないということ。これは理念的なことではなく、無人機を運用するための統制システムなどがセットになって、武器商売になっているという。

商売という以上、代価がある。同書によれば、「グローバル・ホーク」という無人偵察索敵機の値段として、管制システムとメインテナンスをあわせたシステム全体で、1機あたり1億3000万ドルとのこと。


これが特定の無人機の運用だけではなく、さまざまな兵器を運用する「ネットワーク・セントリック・オペレーション」という概念があるという。情報収集から兵器運用までの一体システムである。
さらには、これが異なる部門、さらには他国との協同で行えるようにする相互運用性(インターオペラビリティ)が樹立されつつあるそうだ。これは兵器を統一するということではなく、インターフェイスが標準化されるというレベルである。(いままでこのブログでもシステムのありかたとして何度か書いた覚えがあるが、モジュールとインターフェイスの明確化がキーになっている。)
このネットワーク・セントリック・オペレーションが進行する中では、SDI(スターウォーズ、戦略防衛構想)は「赤いニシン」だったという。

これによって、複数国による共同作戦が実行できる、しかもそれは既に実施されている。アフガンで、ソマリア海賊退治で。
ソマリア海賊退治(「アタランタ作戦」というらしい)は、2009年1月に国連本部内で発足し、「国連がお墨付きを与えたという感じ」だそうで、日本、中国、ロシア、ジブチ、イエメン、インド、米国、欧州諸国、アフリカ連合、国際海事機関などが参加している。
中心は米海軍第五艦隊の合同任務部隊というところらしく、共同運用のプラットフォームは米海軍のものになっているのだろう。海賊船を見つけたら、それは指令部のモニターに大写しされ、その通信は傍受され、直ちにGCHQ(Government Communications Headquarters、政府通信本部。エシュロンの一角をなす。この本を読むまで知らなかった)で翻訳されるそうだ。

この本の中では、こうしたフレキシブルな共同運用が可能となっていることから、現代は、特定の国の同盟関係よりも、「協力安保」、この本の表現では一期一会の作戦、として、特定の作戦を共同で実行する時代になりつつあるという。そしてそれを要請する国際環境として、各国が自国の安全保障負担を少しでも下げたい、という動機がある。

集団的自衛権で騒いでいるのはどこの話だろう。しかしその国の自衛隊もインターオペラビリティはしっかり確保しているらしい。


これだけのシステムはもちろん一朝一夕でできるわけはないし、「完全なデザイン」に従って作れるものでもない。いろんな経験の積み重ねで出来上がってきたものと思う。そしてそういうシステムにはかならずバグが潜む。すべてを理解している人間はいない。「解っている」のはシステム自身だけと言えるかもしれない。
将来は、どう運用するかもシステム自身が自己決定するようになるかもしれない、2045年頃には。
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

Gallery
検索フォーム

⇒記事一覧

プロフィール

六二郎。六二郎。


定年退職
苦しい家計の足しに再就職
=いつクビになってもええねん
 言うたもん勝ちや!のブログ
リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
アーカイブ
カテゴリ
タグ

ITガジェット 書評 マイナンバー Audio/Visual 

リンク
現在の閲覧者数
聞いたもん