縮む世界でどう生き延びるか?

chidimusekaideikinobiru.jpg長谷川英祐「縮む世界でどう生き延びるか?」を読んだ。
この本では2つのことが印象に残った。

一つは、ヒトは2つの「世界」に属しているということ。
通常、生物は自分の生きている世界(社会)は「個体-コロニー-生態系」と考えることができる。ヒトはこれに加え「社員-会社-経済社会」というもう一つの世界を生きている。
この2つの「生き方」は分裂しがちだということが注意されるが、分裂していること自体にはそれ以上の突っ込みはしない。これは一つの伏線であって、生態系と経済社会はパラレルに考えることができるというのが、経済学素人と自称する著者の主張として、後に浮かび上がってくる。

もう一つは、本書のテーマである、「膨らむ世界」と、「縮む世界」の対比である。
膨らむとか、縮むというのは、その場所に住む特定種の個体群に注目して語られるのだが、生物学の知見として、どちらのタイプの世界になるのか、それを分ける要因、メカニズム、典型的な帰趨の観察事実と予測が語られる。

膨らむ世界で生きる生物は、繁殖速度が速く、短命であり、不安定な環境に適応しており、縮む世界の生物は、繁殖はゆっくりで、長生き、安定した環境に適応しているという。
膨らむ世界の典型例は、めったに雨の降らない砂漠にいきるカエルやエビの仲間。雨が降ると一気に繁殖活動(卵を産む、卵から孵ってすぐ卵を産む)を高速で行う。また、卵には一度の降雨で孵るもの、複数回の降雨で孵るものがあり、一度の降雨が少量のため繁殖完了ができないケースも想定して、一斉に死滅するリスクを避けるようになっているそうだ。
縮む世界の典型例は、極相林で、林床に日がささず他の光合成植物が繁茂できない世界。あるいはシーラカンス。

筆者は、進化は生物界だけのものではない、遺伝、変異、選択が存在するものには適応進化が起こるとする。
つまり、これらがあてはまる(同じ構造をもつ)なら、経済社会においても適応進化が起こるという。
これは類推適用ではなく、遺伝、変異、選択からなる数学的モデルなら、その挙動は当然同じものになるということを意味している。(個、群れ、社会、そして諸々の条件を数学的モデルとして記述してしまえば、あとは数学的・論理的帰結になる。)
本書は一般向けに書かれているから、特に数学的モデルとして解説されているわけではないが、専門書・論文では、おそらく厳密な(プレイヤー定義や環境条件の緻密な)数学的モデルの提示がなされているのだろう。

hatarakanaiariniigi.jpgなお、著者は本書に先だって「働かないアリに意義がある」を著している。働かないアリができるメカニズム、その効用を解説している(やはりバックには数学的モデルがあると思う)。本書でもこのことが随所で参照される(先にあげた卵の孵り方の違いも実は同種のメカニズムである)。

で、こういう本を読むと思う。
生物学者がその知見のいくつかが経営にもあてはまるところがあるというのは面白いのだけれど、経営コンサルタントとかがビジネス本で組織論や経営論、人材育成などを述べ立てるときに(自説に都合の良い)生物学的知見を引っ張り出してくるのは違うとおもうのだ。
言い古されたことだが、科学は反証可能でなければならない。生物学的知見は、それを成り立たせる条件やその解釈がきちんと吟味された(その適否はともかくとして)科学的と言いうる知見で反証可能な仕上がりであるのに対し、ビジネス本の著者の言説は(条件は曖昧で解釈は多義的な)占い師のそれのようなものだからだろう(私のこの文章もそうだけど)。

ビジネスのヒントが欲しい人もご一読を。
その判断の参考になるかもしれないので、著者の意見を2つだけ紹介しておく。

・草食系は縮む世界への適応かもしれない
・生物界では個体の利益を損ねる組織は存在しえない
 (だからヒトは2つの世界に分裂して属しているといわざるを得ないのか)


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