国勢調査のネット回答のやりかたは適切だったか

censusIDpw.jpg 国勢調査のネット回答用ID/パスワードの配布が不適切な事例があると報道されていた。
新聞報道の前にもネットには、郵便受けに誰でも抜き取れる状態で放り込まれているという書き込みがあり、「ID/パスワードが書かれているのに大丈夫か」というような意見が見られる。
しかし、プライバシーの問題はさておいて、今回の手順が適切だったかどうかは私も疑問に思っている。

今回のネット回答は、次の手順である。
  1. 各世帯に対し対しネット回答用のID/パスワードを付与、これは9月10日~12日の間に各戸に配布
    (この時点では紙の調査票は配布されない)
  2. ネット回答は9月10日~20日の間受付
    (なおパスワードは本人が変更でき、後日修正回答が可能)
  3. ネット回答が行われなかった世帯に対して、紙の調査票を配布
  4. 紙の調査票の回収
各世帯への配布物が1.と3.の2回行われる。そして1.でIDを配り間違えると、その人が回答した場合、本来のIDの持ち主のところには3.の調査票が配布されないことになり、調査漏れになるおそれが出てくる。
また、取り違えが起こると、回答内容の住所と、予め紐付けた住所が異なることが検出されて気持ち悪いから、事務処理側が、本来ならやる必要もない配布チェックをやらなければならなくなる。

事前に人が住んでいそうなところを確認するのは(これには住宅地図などが使われる。現に居住している人を対象とする国調では住基などは使用されない)、回答率などを出すためにも必要だから、世帯の識別・存在確認は必要だけれど、ネット回答用のIDを配布するのは同じ人が何度も回答しないようにするぐらいしか意味はない。ID/パスワードが配布されることでプライバシーが心配という意見は、だから、お門違いだろう。ID/パスワードという言葉に惑わされているだけのように思う。

前に、世帯単位の調査だから、対象者IDでなく世帯IDという言葉にしたらどうかと書いたけれど、さらに言うなら、調査票IDという表現が一番適格だと思う。(調査票をどれだけ配布し、どれだけ回答されたか、そして重複した回答はない、というために使われるものである。)

それに、1.でIDを受け取った世帯が紙の調査票が配られていないことを不審に思われる可能性も高い(実際、その問い合わせが頻発しているらしい)。


私がやるなら、紙の調査票自体に調査票ID/パスワードを印刷して配布、ネット回答でも紙での回答でも良いと明記する。
これなら配布ミスがあっても、ネット回答と紙回答が別人で行われる心配はなく、回答内容は信用できる(集計は事前に紐付けたIDとは関係なく行われる。前述の「やる必要もないチェック」も発生しない)。

それに調査票が来ないという問い合わせが殺到することもない。

ネット回答の受付期間は紙の調査票の回収方法によって決める。つまり、ネット回答をした世帯には回収に行かないのであれば早めにネット回答の受付を打ち切らなければならないし、とにかく全戸に回収に回るのであればぎりぎりまで回答を受け付ければ良い(「ネットで回答済」という欄を調査票に設けて、全数回収すれば、調査票を機械で読み取るときにはじくことができるだろう)。

【追記】

それでも調査票がどこに配布されたか自体も保護すべき個人情報という意見もあるかもしれない(回答内容自体がプライバシーだがそれは十分に保護されているとしても)。もしそうなら次のような方法も考えられる。
調査票をどの世帯に配るかを中央から指定せず、調査区単位にまとめて調査員がどの世帯に配るかを決める。未回答世帯は調査票IDで調査員に知らされるが、それがどこの世帯であるかは調査員以外は知らない。1調査区は50~100世帯だから調査員が十分管理できる。調査員は、統計法違反(調査協力義務違反)とかで立件されない限り、どの調査票をどこに配布したかを市町村・国に対しても秘匿する。
調査員は回答内容がわからない、国は誰の回答か(外形的には)わからない、要するに情報を分散管理することで保護するわけだ。


今回のやりかたは、手間も正確性も劣ると思うのだが、なぜこういうやりかたにしたのか、外部の人間にはわからない事情があるのかもしれない。

漏れ聞くところでは、こうした問題点は早くから市町村が指摘していたことらしく、もしそうなら、国は見直しはしなかったというわけだ。
ネット回答を先行させるほうがネットの回答率が高くなるというのが国の説明らしい。「先行」には、IDの配布の先行、回答の先行の2つの意味があるのだが、今回は調査票を配らないことでネット回答へ誘導するというさらに高度な作戦だったのだろう。
しかし、ネット回答の採用が事務処理の軽減・正確性の向上であるなら、上述のような問題の発生が予想される状況で、ネット回答率そのものを上げることを目標にするのは本末転倒だろう。
紙の調査票は書くのも出すのも面倒だからネットで回答しようというデジタル人間にターゲットを絞って、そこだけ効率化されれば良いという判断もあるのではないか。

近年の国の制度設計は「国は法・制度を決める、問題があったら運用で解決するのが市町村の役割」という感じのものが多いように思うが、制度設計を間違っておいて運用の責任にするのは、現場感覚がないというか、想像力が欠如しているというか、何より無責任な話である。そしてこの国はどんどん無駄な事務コストを増やしていく。

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ネット回答やりました。

珍はさきほどネット回答を行いました。すぐ終わりました。
ネットの画面遷移もサクサクいけました。
珍が指導員だったのは平成12年国勢調査でしたが、隔世の感があります。
調査項目もこんなに簡単だったけ…と拍子抜けする感じでした。(仕事の内容を書くのが一番面倒ですな)

さて、六二郎さまがご指摘のとおり、この調査対象者IDって本当に自分のだろうか…という不安はありますけど、珍の場合、実際は調査員さんが顔見知りってこともあって(予告しての郵便受け投入)そのあたりは大丈夫だとは思っていますけどね。

今回のネット調査の用紙類を配布するにあたり、くだんの調査員さんは60歳ぐらいの男性に「個人情報が漏れたらどないしてくれんねん!」と詰め寄られたらしいです。まあ性格的なこともあるでしょうが、セキュリティの仕組みなどお構いなく、マスコミ等によって何となく積み上げられてきた「個人情報漏洩の危険」というイメージだけで(それも回答前に)文句を言ってもねぇ。紙の調査票のほうが自宅近場での漏洩リスクが高いようにも思えますけど。
なお、このオッサンの文句にはオチがありまして、詰め寄るわ、調査員証を掴んで見たおすわ、文句垂れるわの挙げ句、「9月末に引っ越しするんや」と言ったらしいです。ボケですな。

六二郎さまの「紙の調査票自体に調査票ID/パスワードを印刷して配布、ネット回答でも紙での回答でも良いと明記する」にはまったく同感です。調査票印刷代が若干かかるかもしれませんが、今回の方式では紙の調査票も予備分を相当印刷しているのでは?統合できる書類もありますしね。

5年後のさらなる効率化に期待しておきます。

Re: ネット回答やりました。

H12(2000)年調査は大調査(今年は簡易調査)ですから調査項目はもっと多かったでしょう。

> この調査対象者IDって本当に自分のだろうか…という不安
これがすべての間違いの原因です。
調査対象者IDは配布・回答のチェックのためのものでしかなく、これと回答を照合するのは配布状況の確認のためであって、調査内容とは関連しないはずです。(調査区情報は小地域統計の作成のために使われる可能性はありますから、調査区を超えて配布間違いがあると問題かもしれませんが。)
つまり、国調の集計のためには、自分のIDである必要は全くないはずです。
繰り返しになりますが、「調査票をもれなく配布し、もれなく回収し、二重回答が存在しない」ためのIDであり、それ以上の目的はないということを国民に理解していただくことが、調査に協力してもらうために重要だと思います。
それを言葉の上で明確にするために、「調査票ID」という言葉を使うべきだと提案しています。

ネット回答率はせいぜい10%と予測していますから、調査票の印刷代軽減効果は大したことはないでしょう。それより、調査員の訪問回数が増えてしまうことの方がコストを押し上げると考えられます。なお、ネット回答を導入して調査員の負担が下がるからという理由で、調査員報酬を減額しているらしいです。実際には今までよりややこしくなり、出動回数も増えているので、調査員からはブーイングが出ているようです。


> 5年後のさらなる効率化に期待しておきます。
おかしな制度設計をして、問題点が指摘されたら、決まったことだから従えという国の姿勢、その裏には市町村ごときに意見を言われたくないという意識があるのでしょう。したがって、問題点の指摘が的確であればあるほど、無視するという子供のような態度をとると予想されます。ですから、決して制度が良くなる見込みはないと、私は思っています。

「漠然とした不安」というイメージ

六二郎さまも書いておられたと思いますけど、「ID/パスワード」という用語を使うので「一意に対象を特定する」というイメージから、実際はネット回答と調査票配布チェックであるのに、ものすごく個人情報っぽい印象を与えているように思います。しかも「インターネット」に付きまとうマイナスイメージもなくはないですし。

調査員さんからはそんな説明もありませんでした(ネットで回答したら用紙記入はありませんのでご協力を…です)。というか、そんな解説は六二郎さまでないとできないですし、説明して理解してもらえる人もどれだけいるのやら。

「調査票ID」方式がよりベターですが、せめて「ID/PW」という表現を「調査票番号」にしてもらって、長くなりますけどID/PWをがっちゃんこしてしまうとか、個人情報ではないという工夫ほしかったです。管理者目線ですね、ID/PWって。

Re: 「漠然とした不安」というイメージ

> 調査員さんからはそんな説明もありませんでした
そりゃそうでしょう、その説明は私の考えをまとめたもので、総務省のものじゃありませんから。

「調査票をもれなく配布し、もれなく回収し、二重回答が存在しない」が調査票番号の意義であるという、単純かつコンセプトの明確な概念整理・定義がなされないまま事業を進めてきたのでしょう(だから腑に落ちる説明ができないのも当然)。
「漠然とした不安」は、こういうクリアーな概念が提示されれば解消される(または問題の所在がはっきりする)でしょう。

そして不安の解消と称して、余計なセキュリティ対策や余計なチェックを弥縫策的に発生させ、コストは上がる、問題の所在はよけい曖昧になる、そのためセキュリティ欠陥はむしろ増える、政府ITの基本パターンがここでも見られるわけです。
つくづく、後腐れのない国調のシステムで良かったと思います。

ところで前のコメントで、ネット回答率は10%程度だろうとしましたが、現時点で既に10%を超えているようです。最終的には20%は超えそうです。
これで、設計ミスは帳消しになって、大成功と総括されるに違いありません。
(ですからやはりシステムの見直しはされないでしょう。)
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