立川吉笑「現在落語論」

kissho_genzairakugoron.jpg 立川吉笑「現在落語論」。

若僧が何を生意気に講釈垂れてるんだ、というのが読み始めた時の年寄りの感想。
というか、著者はもともと京都のくせに(というか京都だから大阪への反発?)、江戸落語なんぞやって、上方落語をどう考えてるんだということも初っ端にもよおす不快感。
上方の落語家が、江戸落語について「もぞもぞ言ってるだけで何がおもしろいんや」と酷評していたこともあった。

もっともそういう状態は本書にも書かれているように、一時代前の状況で、かつて立川談志がこのままでは能のようになってしまうと憂えた頃のことでもあるようだ。

その談志、粋の固まりみたいなところを感じるわけだけれど、そしてうまいと思うけれど、上方贔屓の私としては、いちばん小気味よい話は、米朝の東京公演を談志が聴きに来て、ガックリ肩を落として帰ったというエピソードである。(「名人は名人を知る、ようわかっとるやんけ」と余裕で談志を誉めた。)

ということで、訝りながら読み始めた本だけれど、そこに書かれていることは至極きちんと筋の通ったことである。
落語について、その技術や特性について考えた、あるいは考えさせられた人なら、右に掲げた目次を見れば、どういうことが書かれているか、たちどころに了解できるものと思う。

著者は、自らのお笑い体験・落語家としての修業を通して、こうした理詰めの落語技法を文章化したのだろうと思う。その分析にはなるほどと思わせるところも多いし、よくまとめられている。

少し違うかなと思うのは、落語がもつアドバンテージを強調するあまり、実はその表現技法は落語だけというわけではないんじゃないかということ。
たとえばありえない時間・空間的設定(第一章1。跳躍や歪みであったりする)を落語の特有のもののように書いているが、これはエッシャーの絵をはじめ、絵画やマンガでも、ケースによってはよりうまく表現できる場合もある。『胴斬り』のシュールさは『猿飛佐助』をはじめとする初期のマンガでも多用されていると思う。

また落語特有と著者がいう、情報を「隠す」(第二章1)技は、小説のような単線的な順序を持つ表現形式なら同様に可能である(もちろん演劇とかだと、隠れていたということに意味が出てしまってうまくいかない)。

その一方、昔からあるシュールな落語について、落語の表現の柔軟さを強調するわけだが、実際には、それ以上に感心すべきなのは、そんな昔から、その話をおもしろがる感性を持っていた庶民の方かもしれない。

この本を契機として、立川吉笑、立川談笑という落語家の芸をYouTubeで見せてもらった。
やっぱりまだまだこなれてないなぁ~、と思ってしまう。

米朝などは、喋っている人間や場面の転換、そうしたものを表現するための、顔や体の向き、目線、言葉使い、そのすべてに対し、細かな演技が必要であり、それが自然にできる(それがどれほど難しいかはやってみようとすればわかる)ようになるのが落語の稽古であると考えていたようなフシがあって、それを厳しく弟子に求めていたと思う。

また、言葉使い一つで、大家なのか店子なのか、侍か商人かがわかるわけだが、もちろん、吉笑氏もそのことは承知の上だろうけれど、この人の高座ではそれは残念ながら十分には聞き分けられない。
みずから自身の代表作という「ぞおん」でも、登場人物2人のメリハリはもう一つのように思う。

落語の技術としては、まだまだ未熟なのだと思う。
おそらくそのことは自身も良く解っていて(でないとこれだけの本は書けないだろう)、これからの精進を期待する。

第一章 落語とはどういうものか
1 何にもないから何でもある
顔色の悪い赤鬼
不条理な空間を描く
2 落語の二面性―伝統性と大衆性
始まりは大衆芸能
二面性についてのコンセンサス
3 古典落語と新作落語
伝統性と大衆性のバランス
古典落語の誕生
アーカイブによる伝統性の強化
なぜ新作落語がつくれるのか
それ、落語じゃなくていいだろ
4 マクラは何のためにあるのか
自己紹介の役割
お客さまを知る
メッセージにリンクさせる
フェイントマクラ
幻想マクラ
第二章 落語は何ができるのか
1 省略の美学
引き算の美学
下半身の省略
空想の具現化
場面転換が容易
情報を「隠す」ことができる
自由自在な入れ子構造
2 使い勝手のよさ
辻褄が合っていなくても問題なし
歌のように聴ける
定番キャラクターの存在
3 古典落語を検討する
『二階ぞめき』
『不動坊』
『胴斬り』
第三章 落語と向き合う
1 志の輔の新作落語
落語でしか描けないもの
伝えたいメッセージとは
2 談笑の改作落語
改作落語の狙い
「花魁」を「アイドル」に
スライドの技術とセンス
大衆性をブーストする
噺の本質を掴む
改作としての『紺屋高尾』
3 擬古典という手法
擬古典とはなにか
擬古典を選んだ理由
擬古典『舌打たず』台本
4 ギミックについて
ネタづくりのルール
ギミックの展開例
ネタをチェックする基準
代表作『ぞおん』
現代が舞台のネタ
落語との向き合い方
第四章 落語家の現在
1 吉笑前夜
弟子入り
師匠選びも芸のうち
2 「面白いこと」への道
ぼくの好きなお笑い
お笑い芸人を目指す
面白いことをやりたい
決定的な転機
3 落語会の抱える二つのリスク
需要と供給のバランス崩壊
外部参入による構造改革
ただの大衆芸能になる日
4 落語の未来のために
全国ツアーという活路
ぼくが立つ場所


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