坂野潤治「日本近代史」(つづき)

nihonkindaishi_banno.jpg 昨日は、本書全体から考えさせられることとして、

一つの事実が、教科書的な割り切りではない、さまざまな異なる意義づけをされて示される。
そうした事実に気づかされると、自由主義、民主主義、政党政治、そういうものが維新後に成熟してきた歴史と考えてはいけないことを思い知らされる。

とまとめた。

その一つの例として、選挙権のことを考えよう。

折しも選挙権が「18歳以上」に引き下げられたけれど、個人の判断能力に依拠したのでは線引きの問題で積極的な理屈はないと思う。一方、「一人前」というのを社会人として責任を果たすことというなら、18歳以上が妥当かどうかはアヤシイ。

それはそうとして、選挙権は次第に拡大してきている。
学校で教えられるのは、国会が開設され選挙がはじまったときは制限選挙で、それが少しずつ拡大されて、ついに普通選挙に至るという、まるで定向進化のような扱いだったように思う。

しかし、事実はそう単純なものではない。
表層だけを見れば、民主化勢力と、それを抑える政府という図式にも見えるけれど、それは民主化が我が国の歴史だと思いたい人の都合・思い込みでしかなくて、実際は民主的でも何でもない地主層との取引の歴史ということかもしれないというわけだ。

「直接税○○円以上の納税者」⇒「金持ちだけが選挙権を持っていた」という理解は実は不十分で、当時の税の基本は地租であって、それを納めるのは士族ではなく、地主層だということまで理解したうえで政治のダイナミックスを理解しなければならない。

公布年資格有権者数
1889
(明治22)
直接国税15円以上納める25歳以上の男子45万人
(1.1%)
1900
(明治33)
直接国税10円以上納める25歳以上の男子98万人
(2.2%)
1919
(大正8)
直接国税3円以上納める25歳以上の男子307万人
(5.5%)
1925
(大正14)
25歳以上の男子1241万人
(20.0%)
1945
(昭和20)
20歳以上の男女3688万人
(48.7%)



余談になるが、税制は選挙権の理解だけでなく、あたりまえだが財政政策の理解にも必要だ。
松方デフレのとき、税収の根幹である地租は固定額金納制であったため、当時のデフレは政府の実質増収策であって、財政再建・財政好転を行うための施策であり、単純な緊縮財政と考えたのでは間違うのである(現在の税制ではインフレが自然増税をもたらす)。

現在の税制の根幹である所得税だが、日本に導入されたのは1887年(明治20年)で、金持ちだけが納める「富裕税」的なものだったそうだ。その後大きな変更はなく昭和に至るのだから、主たる税負担者が地主層(いわゆる士族ではない)だったということは、何のことはない、明治になっても税金を負担する人はなかなか変わらなかった(小作人は地主への負担)ということだったわけだ。


もう一つ、本書には憲法制定過程もとりあげられている。
本書でそうと書かれているわけではないけれど、あらためて憲法制定を考えると、やはり大日本帝国憲法は権力者が作ったものという思いがする。

前述のまとめ(自由主義、民主主義、政党政治、そういうものが維新後に成熟してきた歴史と考えてはいけない)は、憲法制定のことを考えると、それが端的に現れているような気がする、以下のように。

西洋においては、憲法というのは国家権力(王権)に対して国民が勝ち取った歴史があるけれど、日本はそうではなくて、西洋列強並みの文明国の体裁をつくろうために、国家権力が作って国民に押し付けたものにすぎない。そういう意味ではモーセの「十戒」みたいなもの。
現行憲法がアメリカの押し付けだとか言ってる人がいるけれど、所詮、権力者側の騒ぎ。そもそも日本には西洋的な意味で憲法と言えるものなど歴史的に存在していない(だから内閣の意向で解釈「改憲」も自由)ということなのだろう。

こう書いてくると何とも情けない歴史を持ってきたのかという気になるけれど、それも民主主義を至高の理念と思うからで、そういう価値観(これは案外新しい)を離れてしまえば、別の考え方もあると思いたくなる。


教科書的な、というか「こういうことだ」と割り切るのは心地よいけれど、世の中はそう単純じゃないということに気づかされる本である。

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

Gallery
検索フォーム

⇒記事一覧

プロフィール

六二郎。六二郎。


定年退職
苦しい家計の足しに再就職
=いつクビになってもええねん
 言うたもん勝ちや!のブログ
リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
アーカイブ
カテゴリ
タグ

ITガジェット 書評 マイナンバー Audio/Visual 

現在の閲覧者数
聞いたもん