「モーツァルトと女性たち」

51dDFs7H74L.jpg ジェイン・グラヴァー「モーツァルトと女性たち:家族、友人、音楽」(原題:"Mozart's Women")は、472ページの大著である。
グッドール「音楽の進化史」なみの分厚さである。

著者は女性。指揮者でもある。
この本を読むまで、この指揮者の存在は知らなかった、というか多分、今までにテレビの音楽番組などで絶対に見ている人だと思うけれど、指揮者として意識したことはなかった。

タイトルは「……と女性たち」とあるが、女性との関わりばかりが書かれているわけではない。というか、むしろサブタイトル「家族、友人、音楽」の方がピッタリであろう。「……と女性たち」としたのが目を惹くためというわけではないとは思うけれど。

タイトルから連想されるような、モーツァルトと女性のエピソードを集めたというものではない。
しっかりしたモーツァルトの伝記である。この内容なら、どんなタイトルが付いていてもかまわない。

私はモーツァルティアンを自任するくせに、まとまった伝記といえば、アインシュタイン「モーツァルト:その人間と作品」ぐらいしか読んでいないのだけれど、アインシュタインは楽曲ジャンルごとに、その曲が書かれた、あるいは演奏された時期といった形で伝記的な記述があるわけだし、普通の伝記なら年代記という形で年を追って書かれる。
この本は、人間関係をカテゴライズ、つまり、家族(レオポルト)、もう一つの家族(モーツァルト、つまりコンスタンツェと営んだ家族)、演奏家(オペラ歌手たち)というように分けて、それぞれの関係に沿って記述している。

前奏曲
モーツァルトの家族
モーツァルトのもうひとつの家族
モーツァルトとオペラの女性たち
モーツァルト亡きあと
後奏曲
目次は右のとおりだけれど、したがって、読者は少なくとも3回、年代に沿った記述を読むことになる(「モーツァルト亡きあと」だけは、当然だけど、対象年次が異なる)。
そして、それが無駄な努力ではないということは、読めばわかる。

というか、4つの章ごとに1書としても何らおかしくはない。
1書としたのは、前述のような書き方からわかるように、章をまたぐ引用があるから、それを別書の参照という煩わしさを防ぐという意味なのかもしれない。


もし難を言うとすれば、カテゴライズされている分、そこから漏れ落ちる人間関係というのもあっただろうから、そこの欠如感のようなものがあって、「完全な伝記」とはならないことだ。完全な年代記であればそういう感覚にはならないのだろうけれど、それは他書に期待すれば良い話であって、この独自のカテゴリーに沿った叙述は実に興味深い。

もう一つ、節の見出しなど一切ないこと。
分量からして、一気に読めるような代物ではないのに、どこまで読んだか見失ってしまいそう。

小説ならその世界に浸って、偽の体験として、偽の記憶として、その時間を生きれば良いから、見出しなどなくても問題ないのだろうけれど、これは研究成果物なんだから、少しは数段落ごとに内容を端的に表す見出しが欲しくなる。でないと、寝る前に読んでいて、今日はどこまで読もうかという、その区切りがつかないじゃないか。


P_20160731_105854.jpg モーツァルトの伝記的知識といえば、前述のアインシュタイン以外では、演奏会のパンフレットやレコードの解説(「モーツァルト全集」の膨大な解説もある)によるものが多い。また没後200年にNHKが1年間放送した「毎日モーツァルト」も相当な情報量である。

であるけれど、本書の各章には、私が今まで知らなかったというか、誤解していたことが次々にあらわれてくる。
図式的に言うと、周囲の人はモーツァルトに面するところだけが書かれていた感がするけれど、この本ではそうした人達を深堀りすることで、それを感じていただろうモーツァルトの心情にも反映されてくる。

もちろん今までにさんざん語られてきたことも多いのだけど、モーツァルトの祖父母からを読むと、どういうことかと言うと、周囲の人との関わりは伝記の大きな要素だけれど、モーツァルトに接するところだけを見ていたのでは、なぜその人がそのような関わり方をしたのかという理解には届かない。

モーツァルトの伝記として絶対に外せない書であると思う。

実は、はじめは図書館で見つけて借り出して読み始めたのだけれど、これがなかなか内容のあるものなので、気兼ねなく、落ち着いて読めるように、自分のものとして読むために、そして手元に置いておけるように、すぐにAmazonで購入した。

そして、ところどころ、関連楽曲をとりあげて賞賛する言葉がある。
これを読めば、やはりその曲を聴きたくなる。
本書を読みながら、そうした曲に聴き入る、そういうゆったりとした時間の過ごし方、これこそ贅沢というもの。

各章の感想については、順次、アップしていくつもり。

ところで今日はモーツァルトの結婚記念日(1782年8月4日)。
コンスタンツェとの結婚生活は、「モーツァルトのもうひとつの家族」の章で書かれる。
「悪妻コンスタンツェ」、その評価は見直さなければならなくなるのである。

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