「江戸前魚食大全」

61sVWQ4oHHL.jpg 冨岡一成「江戸前魚食大全」について。
別に、豊洲市場問題から、築地の歴史を調べようなどと考えて読んだわけではない。

実際、築地中央市場についてはほとんど触れられていない。
(江戸では市場を整備したのは幕府ではない、公設市場は築地中央市場からである、という程度の説明はある)


Amazonのレビューでも同じような感想を投稿している人がいたが、書名からすると「江戸前寿司」とかの話かと思いそうだが、もちろん、それについても触れられている(第八章)けれど、江戸の魚食について、もっと総合的に、漁、流通、料理、及びそれらの成り至った歴史の全般を取り扱っている。

目次を見ればその拡がりが推察されるだろう。まさに、「大全」であり、江戸の上下の人々と魚の関わりの文化誌というにふさわしい本だと思う。

第一章なぜ江戸だったのか?
江戸前とは何か
自然と人のつくった漁場
江戸の生活からうまれた魚
第二章江戸の始まりから魚河岸ができるまで
江戸の都市づくりと水運の改変
関西漁業の進出
魚河岸の誕生
第三章海に生きた人々
漁業はどのように始まったか
水産業のルーツ
古代・中世の流通ネットワーク
海の上のしきたり
第四章江戸前漁業のシステム
漁村と漁法と流通
江戸時代に漁村がうまれる
江戸沿岸の漁村
江戸前の漁法
江戸の鮮魚流通
第五章賑わう江戸の魚河岸
江戸っ子のルーツを探る
日に千両の商い
幕府御用達の明暗
江戸っ子の見本
第六章日本人と魚食、知られざる歴史
日本人はなぜ魚を食べてきたのか
「食べられない」から生まれた食文化
江戸の魚食、現代の魚食
第七章関東風の味覚はどうつくられたか
魚が劇的にうまくなった理由
江戸の味覚
旬と初物
外食文化の発展
第八章江戸前料理の完成
浅草海苔―真の江戸前―
佃煮―漁民のつくった保存食―
―外食文化のルーツ―
天ぷら―南蛮渡来の江戸前料理―
すし―伝統食のコペルニクス的転回―
第九章楽しみと畏怖、江戸人の水辺空間
水辺に遊ぶ
異界の水際
水辺の信仰
第十章江戸から東京へ、江戸前の終焉
海からやってきたえびす
去りゆく江戸前
江戸前漁業の終焉
付録魚河岸の魚図鑑
文章は平明・簡潔で読みやすい。難を言えば、着眼点に沿って書かれているので、時代が跳ぶことがあることぐらい。そして、それは江戸時代というのが、開府から幕末まで、ひとしなみに語れないということでもある。
たとえば、魚河岸というのは、もとは幕府へ魚を納めるためにできたものだが、中期を過ぎると御用よりも、民間需要が重要になる。

驚くべきことに、本書によれば、幕府は市価の1/10ぐらいの価格で魚を仕入れていたと言う。そして魚屋が魚を隠すとそれを見つけ出して、有無を言わさず安値でとりあげる御用役が置かれるという「進歩」もあり、そして魚河岸と幕府の暴力沙汰まで記録されているとのことだ。

そのことを思えば、今どきの役所が民間の商売にいいようにされて、高い買物をしているという批判が、可笑しくなってくる。江戸の奉行所の方が良かったとでも言うのかな。


本書では、随所に江戸川柳が引用されて、魚にまつわる江戸人の様子を描いている。落語も紹介される。それどころか、江戸以前、日本人の魚とのかかわりについては、万葉集までその範囲は広がる。

こういう該博な知識を、読みやすくまとめている著者は、どんな人なのだろう。
本書裏表紙見返しに次のとおり紹介されている。
冨岡一成(とみおか・かずなり)

1962年東京に生まれる。博物館の展示や企画の仕事を経て、1991年より15年間、築地市場に勤務。「河岸の気風」に惹かれ、聞き取り調査を始める。このときの人との出会いからフィールドワークの醍醐味を知る。仕事の傍ら魚食普及を目的にイベント企画や執筆などを積極的におこなう。実は子どもの頃から生魚が苦手なのに河岸に入ってしまい、少し後悔したが、その後魚好きになったときには辞めていたので、さらに後悔した。江戸の歴史や魚の文化史的な著述が多い。近著に「築地の記憶―人より魚がエライまち」(共著・旬報社)


いわゆる学者・研究者の類でもなければ、文筆業というわけでもないようだ。
著書も本書以外は、写真集のようなものの解説を付けているものしか見当たらない。

本は、何冊も書けば良いというわけではない。
しかし、この著者は、この本の一部を取り出して、適宜、膨らませたりすれば、まだまだ何冊も書けるに違いない。
そのぐらい、見事な本に仕上がっていると思う。

真摯に仕事に取り組み、そしてそれを楽しみ、そこから興味を広げていけば、こういう本が書けるんだろうか。

tomioka_tsukiji.jpg そうそう、ネットでこの著者名でググると、“あと半年で閉鎖、「築地市場」に行くべき理由~「人より魚がエライまち」の懐は実に広かった”という記事が見つかった。
豊洲でも、このように親しみと誇りを持った本が書かれるだろうか。







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